ボツ

いったいいつ頃からだろうか。確かな時期は定かではない。

ボクの部屋に男ひとりと女一人がいつくようになった。彼らは何か用があるわけでもなく当たり前のようにそこに座り、なにも言わずなにも伝えずにそこにいる。夕方になれば夕食の用意を買いにいき、飯を食ったあとは家庭菜園を設置する。そんな風にして彼らは時間を消費する。ボクは彼らの動きを見つめるにとどめる。下手に手をだしてしまうと危険な気がした。手伝うよなんてことを言ってしまうと、肩口からエクスカリバーがでてきそうな、そんな気がするくらいの殺気をたてていた。特に女のほうが。それが確か昨日のこと。そして今日は、朝起きて学校に行く準備をするとテーブルの上にバナナのケーキがおいてあり、それを朝食にしようと思って手をだすと、男が静かに首をふったあまりの空腹からか、それをやりすごしてバナナケーキに手をだそうとすると彼は突然顔を真っ赤にして暴れだし、キッチンのすみからすみまでを荒らし始めた。食器類は床に叩きつけられ、食品は無残にもトイレに流されていった。いくらボクがコミュニケートしようとしても気のふれた彼は一向にボクの言葉に耳を貸さず、延々とモノを破壊するのだった。

「頼むからやめてくれ」そんな声も空しく荒らされた部屋にこだまするだけだった。そうしていると、なにごとかと訝ってそのアパートの住人が数人うちの部屋のインターフォンを鳴らし始めた。しかしこんな状況でアパートの人に合わせる顔はなく、ボクはそれを悲しさと忍耐を感じて無視をしながら相変わらず暴れ続けるその男に対して叫び続けていた。そのうちマンションの住人が警察のほうに電話をしたらしく、耳にキンキン響くサイレンの音が聞こえてきた。絶望的な気分になったボクはいっそこのまま殺してくれないか、と男に頼んだが、彼は聞く耳もたず、部屋の壁に対して体当たりを繰り返していた。パトカーは案の定うちの前で止まり、警棒を持った警官がうちの家の鍵をあけて侵入してきた。ボクは一瞬のうちに部屋の外へひっぱりだされ警官とその男が対峙することになった。彼らは互いに向かいあい、一歩一歩と足を横に動かしまるでプロレスの組み合う前のように互いを牽制しながら円を描くようにして足を動かしていた。彼らが目を合わせると漫画のように火花が散り、それによって床に撒き散らされたゴミに着火するのを必死になって消すのがボクの仕事になっていた。彼らはだいたい30分、互いに睨みあっていたが、男がふとした隙に警官が拳銃を発砲した。その弾丸は彼の肩口をかすめたが、命中することなく後ろの窓を突き破った。それに対して激高した男は黒いスーツの内ポケットからこんにゃくをとりだし、振り回し、警官に対して突進していったところで目が覚めた。

朝起きるとテーブルの上のバナナケーキを食べるよ、と言うと男はいいよと言い、今日の予定は?と聞いてくるので、「学校行った後ボーリングバイト」と答えて家をでた。我々は、一つ屋根の下で一体何をしているのだろう?