タルコフ好き

授業でやらなければならない仕事を土井がやってくれるというので彼に感謝しながらブログを書く。

「土曜の夜はオールナイト」が合言葉の我々自意識過剰4、5人組は先週と同じく池袋にある新文芸座で宿命的に出会うのだった。

この日はタルコフスキーの特集で、タルちゃんの映画はこれまで「惑星ソラリス」しか見たことなく、それがひどくつまらなかった覚えがあるもんだからもしかしたらこれは死ぬほどつまらん夜になるかもしれん、と不安に思いつつも池袋に向かう足を止めることはできないワタシ。先に池袋に乗り込んでドトールで横にいる退屈そうなうんこギャルを尻目に本を読みながら会場が開場するのを待っていると、友人からメールがきて、「席を3つ確保しておいておくれ」と言うもんだから、それは待てふざけんな、だって1つ席をとるのに鞄をおいて、もう一つ席をとるのに上着をおいたらもう一つ席をとる方法がないじゃないですか、ズボンでも脱げとおっしゃるのですか、だって今日は水玉のパンツだからそれは是非勘弁していただきたい、いくら仲が良くないと言ったってこんな形で親を悲しませたくはない、愛琉にどんな面下げて会えばいいのかさっぱりわからない、と友人に言うと彼は非常に非情で有名な男だから、「パンでも買って席におけば?」と言いやがったので、ふざけんな!という返信をしたが、最もリーズナブルな方法であるのは間違いないので言うとおりにした。しかしだからといってひとりで4つも席を占拠するのはまわりの目が気になり、しかもその日は運悪くとても混んでいる日で、文芸座がこんなに混むのは小野真弓がやってきた時以来だろう、というくらい、補助席がでてきて「やいお前、ここに座らんか」というくらいに混んでいたので、そんな中で3つも席をとっておいてくれということを頼むのは、なんてデリカシーが無く自己中心的でひとりよがりなのだろうと思った。そして彼には心底幻滅し、その思いをはっきりと彼にぶつけるべく、席の上に鼻糞をつけておいた。

そして彼らがきてなんの躊躇もなく鼻糞の上に座りシメシメと思っているうちに映画が始まった。最初は「ノスタルジア」というイタリアの都市でロシア人詩人がとあるイタリア人と出会い、そこからはなんだかよくわからんようなうだうだうどんとした話だった。しかし話はいまいち分からなかったが、なによりその映像美にボクは圧倒され、これまで映像がキレイだったことで感心したことなどほとんどなかったのだが今回ばっかりはその圧倒的なまでの美しさに辟易した。全編にわたってキレイな映像だったのだが、特に泉の中で男が絶望的な顔をして寝転がっている横で詩集が燃えていくシーンや、イタリアのおっさんが子供を階段でおっかけていくシーン(セピアっぽい白黒)は、思わず文字通りに「うげえ」と言ってしまい、隣にいたムツゴロウさんに迷惑をかけることとなった。絵の構図としてはこれは「ソラリス」にもある程度は共通すると思うが、比較的遠くから人物をその絵の中心において撮影しているものの、タルコフスキーが見せたいのは人物ではなくそのまわりの部分ではないか、と思った。それは背景にこそタルちゃんの緻密な演出が見出され、例えば水の動きなどは彼はものすごく細かく美しく映しているなあと思った。これはいわゆる図と地の話で、人というものはだいたいにおいて図のほうに目がいってしまいがちだが、タルちゃんのノスタルジアに関しては地のほうを美しく撮っており、そうなるとその絵の中においては図と地が転換するという現象がおこるのではないか、ということで、そういうシーンが比較的多かったというのが、「ノスタルジア」の印象だった。けれどこの意見が全く間違いだ、と玄人映画ファンに言われるのはひどく恐ろしいので、馬鹿で単純な素人映画ファンだけがこのブログを読んでいるといいなあと。思う。

その次の「惑星ソラリス」は一度見たことがあったこともあって寝る時間にあてようと思ったのだが、横のムツゴロウが犬語で寝言を「バウワウ」言いやがるので、うまく眠ることができず、途中で諦めて見てみたら案外思った以上に面白かったので、スクリーンで見るのと家のテレビで見るのでは一向に違うものな、とひとりごちた。休憩時間に横の横にいたYがやたらと「アタシすごい泣いちゃった」というもんだからこういう泣くシーンなんてほとんど皆無な映画で泣けるなんてすごいなあと思うと同時に決定的な敗北感を味わった。

最後は「僕の村は戦場だった」だった。これは上2作のタルちゃん作品とはうってかわって、早いテンポで、近めからの撮影の多い作品だった。まるで同じ人の作品だとは思えなかった。この作品はムツゴロウがひどくおもしろいと言うもんだからボクの中では今夜のヘッドライナーであったのに、いまいち話が分からない上(登場人物を顔で区別できなかったのが最大の理由、だってロシア人はみな同じ顔をしてるもんだから)に、ソラリスの時に眠れなかった影響からかひどく睡魔が襲ってきたので、正直つまらなかった。

終わったらじゃあいつものように朝飯を食いにいこうということになって、その時にボクの知り合いがサークルの後輩やら先輩やらを含めて仰山おったのでみんなで食べにいったらおもしろいかもしれんと思ったのだが、よだれのたれた座席を懸命に拭いている間に気づいたらみんな帰ってしまっていたので、映画館をでた途端に声をかけられた中国人の案内に従ってファッションヘルスに行き、そしたらサービスねと言われてディープキスをしている間に口内に睡眠薬を混入されたらしく、気づいたらベッドの上で持ち物の携帯やら財布やらが盗られていたのでこれはいかんと思って池袋署に行ったら「これ、シンガポールマーライオンの口の中にあったらしいですよ」と見覚えの無い財布を渡されたがこの際誰のでもいいと思ってそれを受け取り、中身を見たら400円しか入ってなかったものの、その中の宝くじを見たら2億円があたっていたので、一夜のうちに大金持ちになったらいいなあと思いながらムツゴロウと小田急に揺られて帰った。来週はカウリスマキオールナイト。

(5月16日 12時10分)